うつ病治療を行うストレスケア病棟とは ——看護師・保健師として見てきた現場の実際

うつ病治療を行うストレスケア病棟とは ——
看護師・保健師として見てきた現場の実際

日々、言葉にできないほどの重だるさや、消えない不安を抱えて過ごされている方もいらっしゃるかもしれません。「休んでいるはずなのに、ちっとも心が休まらない」と感じる時期は、とても心細いものです。

私はこれまで、日本の医療現場、なかでも「ストレスケア病棟」と呼ばれる場所で、看護師・保健師として多くの方の回復過程を共にしてきました。

この記事では、ストレスケア病棟とはどのような場所なのか。そして、うつ病などのストレス関連疾患から回復していく過程で何が大切になるのか。私が現場で見てきた「事実」をもとに、お伝えしたいと思います。


ストレスケア病棟とは、どのような場所か

ストレスケア病棟とは、主にうつ病や適応障害、過労による心身の不調など、心理的なストレスが原因で日常生活が困難になった方が入院する専門病棟です。

一般的な精神科病棟と比べて、プライバシーに配慮された個室が多く、静かで落ち着いた環境が整えられているのが特徴です。ここでは、日々の家事や仕事、人間関係といった「外部 of ストレス源」から物理的に距離を置き、まずは心身を徹底的に休めることが最優先されます。

そこでは医師、看護師、公認心理師、作業療法士、精神保健福祉士など、多職種がチームとなって一人ひとりの回復をサポートしています。

診断と薬物療法という「土台」の大切さ

うつ病の治療において、医師による「診断」と「薬物療法」は非常に重要な役割を果たします。

脳のエネルギーが枯渇し、神経伝達物質のバランスが乱れている状態では、本人の努力や根性だけで回復することは困難です。適切な処方によって眠りを整え、過剰な不安や焦燥感を和らげることは、回復への一歩を支える「土台」となります。

私たちは現場で、お薬によって少しずつ夜眠れるようになり、表情が和らいでいく過程を何度も見てきました。医療機関での治療は、暗闇の中に灯る最初の明かりのようなものです。

「吐き出し、受け止められる」ことから始まる回復

しかし、お薬だけで全てが解決するわけではありません。土台の上に「安心」という柱を立てていくプロセスが必要です。

私が看護師としてベッドサイドで接する中で、回復の転換点(きっかけ)になるのは、多くの場合「誰にも言えなかった苦しさを、初めて言葉にできた瞬間」でした。

1. 吐き出しと受け止め

「こんなことを思ってはいけない」「自分が弱いからだ」と自分を責めている方は少なくありません。そうした思いを、専門職にありのまま話し、否定されずに受け止められる経験。それが、「ここにいていいんだ」という安心感に繋がります。

2. 救いと言語化

モヤモヤとした苦しみに名前がつき、「私はあの時、あんなに辛かったんだ」と自分自身で理解(言語化)できるようになると、少しずつ重荷が軽くなっていきます。

3. SOSの出し方を練習する

病棟は、社会復帰に向けた「練習の場」でもあります。「辛い時に、辛いと言ってもいい」。そんな当たり前のようなことが、実は一番難しいものです。看護師との関わりの中で、自分の状態を伝え、助けを求める(SOSを出す)練習を積み重ねていきます。

回復は「一直線」ではないということ

多くの方が「早く元通りになりたい」と願われます。しかし、心身の回復は右肩上がりの直線ではありません。

良くなったと思ったら、翌日にはまた動けなくなる。三歩進んで二歩下がるような、波のあるプロセスが一般的です。私たちは現場で、「今日は調子が悪いですね」ではなく、「今日は波の下の方にいる時期ですね。今はこれで大丈夫ですよ」とお伝えしてきました。

この「波」を受け入れながら、時間をかけて本来の自分自身の力(レジリエンス)を、環境と人の支えの中で少しずつ取り戻していく。その揺らぎに寄り添うことが、私たち専門職の役割だと考えています。

「考えとの距離」を置く、心理教育の視点

私は現場で「メタ認知トレーニング」という、考え方のクセに働きかけるアプローチのトレーナーも務めてきました。

これは、無理に「ポジティブに考えよう」とするものではありません。うつ病の時は、自分を責める思考や、終わったことを後悔する「反すう思考」が頭の中を支配しがちです。

メタ認知トレーニングの目的は、その思考を消すことではなく、「今、自分はこう考えているな」と一歩引いて眺めること(距離を取ること)にあります。

「考え」は事実ではなく、あくまで脳の中を通り過ぎる一つの現象に過ぎない。そう気づけるようになると、思考の渦に巻き込まれにくくなり、心に少しずつ「余白」が生まれていきます。

なぜ「話を聴いてもらうこと」が大切なのか

うつ病やストレス関連疾患を経験する方の多くは、これまで誰かのために頑張りすぎたり、自分の気持ちを後回しにしてきたりした方々です。

そうした方が、自分の内側にあるものを丁寧に聴いてもらうことには、単なる「スッキリする」以上の意味があります。

  • 自分の存在を認められている実感が持てる
  • 客観的に自分の状況を整理できる
  • 孤独感から解放される

これらは、人が本来持っている「回復しようとする力」を引き出すための、不可欠な栄養素なのです。

病院という場所は、どうしても「症状を治す」ことが中心になりがちです。しかし、退院した後の長い人生を支えるのは、こうした「自分の気持ちを大切に扱う経験」や「人との対話を通じた安心感」ではないでしょうか。

健やかな日常への「道しるべ」として

現在は、病院という枠組みを離れ、オンライン上で専門職が話を聴く場づくりにも関わっています。

病院に行くほどではないかもしれない、けれど誰かにこの苦しさを聴いてほしい。あるいは、退院したけれど、まだ社会の中で一人で歩くには不安がある。

そんな時、看護師や保健師、心理職といった専門知識を持つ者が、あなたの「伴走者」となり、じっくりとお話を伺います。私たちは診断を下したり、お薬を出したりすることはできませんが、あなたが自分自身の心と対話し、再び歩き出すための「土台作り」をサポートしたいと考えています。

「こんなことを話してもいいのだろうか」と迷う必要はありません。あなたが今感じていることは、あなたにとっての真実です。まずはその重荷を、少しだけ横に置いてみませんか。

進むべき方向を見失いそうな時、
あなたのそばで静かに針を指し示すコンパスのような存在でありたい。
私たちは、そう願っています。


【ご留意事項】

  • 本記事は、筆者の経験に基づく情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。
  • 現在、心身に強い不調を感じている方は、速やかに医療機関(精神科・心療内科など)への受診を検討してください
  • 自傷他害の恐れがある場合や、緊急を要する強い希死念慮がある場合は、以下の窓口や最寄りの救急医療機関等へのご連絡をおすすめ致します

【緊急相談窓口】

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